ユングの著作や思想,研究にはずっと興味があって,特に20代前半の頃,彼の著作をむさぼるように読んだ覚えがある。元型論みたいなのは分量が多くてかつ難しくてかなり骨があるけど,ヨブへの答えなんかは短いしミステリー小説っぽくもあるのでオススメかも。
二子玉の三省堂をぶらついていたときに「ユングの生涯」っていう書籍をたまたま見つけて,彼の生涯についてお父さんが神父だったとかフロイトと決別して鬱になったとかいうことを何となく知ってはいたけど,もちょっと細かく知りたいなぁと思ったので買ってみた。著者が河合隼雄先生だったのも大きなポイントだったかも。
同時代の精神分析学者として彼と並んで高名なフロイトとの下りが面白い。ユングはいわゆる秀才で,精神病理学者としてめざましいキャリアを積んでいたのだけど,当時異端と見られていたフロイトの学説に感銘を受けて一緒に学会を立ち上げたりしているのだ。
この本を読む限りフロイトは相当ヘンなオヤジで,ユングみたいなちゃんと学者を目指していた常識人はいろいろと手を焼いたんじゃないかと思う。
たとえば。
北ドイツでは先史時代の人間の死体がミイラのようになって泥炭地から発見されることがあった。ユングは以前からそれに興味を持っていたので話題にしたところ,フロイトはそれにいらいらして,遂には,ユングのそのような死体への関心は「フロイトの死を願っている証拠」であると避難した。そして食事中に発作を起こして失神したのであった。
失神するオッサン。超面倒臭そう。
ユングもフロイトもお互い無意識の存在について確信していた。ユングはかなり早い段階から,フロイトの性理論について懐疑的だったというのは知らなかった。根本の理論がそもそも異なっているわけなので,程なくユングは学会から脱退し,それ以来フロイトの一派から攻撃を受けるようになる。友人を失った上に攻撃を受けたことも手伝ってか鬱っぽくなってしまい,その時期に無意識と神話との類似性を身を以て発見していたりする。その時の経験は,彼の理論を形作る上で重要な位置を占めているようである。
つらい時期に自分と向き合うことを辞めず,苦難を乗り越えて一代を成す姿,挫折を乗り越えて成長する姿は,多くの「ものがたり」に見ることができるヒーローやヒロインの元型と言ってもいいかもしれない。高名な科学者の伝記でありながら,良くできた物語を読んでいるようでもあり,彼への親近感がなんとなく増した気がしたのでした。