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新しいPythonの書籍 Pythonスタートブック

新しいPythonの書籍 Pythonスタートブック

こと言語の入門書を書くことに関しては,優秀な技術者が優秀な著者になれるとは限らない。優秀な技術者が起こしがちな失敗は,言語の仕様や機能を並べて,大上段から斬りかかるような入門書を書いてしまうことだと思う。対象読者は言語の入門者/学習者である。難しい言葉がずらずら並べられていたりすると,すぐにモチベーションを失ってしまうに違いない。

書籍の執筆とは読者とのコミュニケーションだと思うのだが,相手とコミュニケーションを続けるためには,まず相手と同じ視点に立つことが重要なのだ。難しい言葉をかみ砕いて説明したり,難解な概念をよく知られている概念を使って解説したり,ということが必要になる。入門書は技術書であると同時に「読み物」「コンテンツ」としての要素が必要になる。「いかにコンテンツであるか」というという部分が,入門書を書く上で大変難しい部分であるように思う。

「Pythonスタートブック」は,新しいPythonの入門書である。Pythonには「守備範囲の広い言語」,という特徴がある。そのためもあって,非エンジニアがPythonを使うことが多い。この書籍は,特にそんな「非プログラマでPythonを学びたい人」向けの書籍と言える。難しい概念や用語を,できるだけ平易な言葉や「例え」を使って説明している。「変数って何?」「条件分岐ってなに?」というレベルの学習者にも,あきらめることなく根気よく,まるで自分の子供に接するように,基本的なことを説明してくれる。その上で対話環境を使ってコードを打ち込んで行き,簡単なプログラムからクラスの実装まで解説してくれる。図やイラストも多く,レイアウトもゆったりしていて読んでいて疲れることがない。読んで楽しくためになるコンテンツとして成り立っている数少ない入門書だと思う。CGアーチストやバイオ,物理,科学や薬学を扱う研究者など,Pythonを使いたい非エンジニアの方々や,これからプログラミングを学びたい方などにぜひ読んでいただきたい書籍だ。

実はこの本には企画段階から関わらせていただいた。初心者向けの書籍を,とのことだったので,エンジニアとしての経験もお持ちで,東京大学で特任助教をつとめておられる辻さんを著者として紹介させていただいた。何度かミーティングに同席させていただきながら,冒頭に書いたようなこととか,turtleモジュールを使うことなどいくつかアドバイスのようなことをさせていただいた。本書の冒頭に私の名前が出てくるのはそんな理由からだと思う。著者の辻さん,担当編集者の青木さんの力があったからこそ,表紙にあるように「まったくのゼロからでも大丈夫」なPython本を作り上げることができたのだ。そんな本の冒頭に自分の名前を発見すると気恥ずかしい気もする:-)。

2010-08-27 04:54