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シン・ゴジラはアンノ自身の再生・覚醒の物語だ

シン・ゴジラはアンノ自身の再生・覚醒の物語だ

実は一度だけプライベートのリアル庵野を見たことがある。神奈川県内のとあるパーキングエリアの売店でのことだった。2013年ごろ,エヴァQが終わってしばらくした頃で,エヴァを完結すべく製作に邁進しているはずの庵野さんがなんでこんなところにいるのか,その時は正直不思議でならなかった。

声をかけようかとも思ったのだけど,妙におどおどしているというか,自信なさげな表情で,「気づいてくれるなよ」といった負のオーラを発していた。そのまま遠巻きに見ているとカールを買ってそのまま売店を出て行ってしまって,スナック菓子が主食って本当だったんだなぁ,と思ったりした。

その時の,数々のヒットアニメを手がけた巨匠,というイメージからはほど遠い印象の彼の沈んだ表情が,妙に頭から離れなかった。

宮崎駿の「風立ちぬ」に声優として出演することを知ったのはそれからしばらくしてからのことだった。そういうニュースを目にする度に「エヴァはよ」と心の中でつぶやきながら,あの時の庵野さんの表情を思い出していたのだった。

そうこうしているうち,東宝の「ゴジラ」の総監督を務めることが発表されたのだった。このニュースを知ったときの正直な感想は「またわざわざ火中の栗を拾うようなことを」だった。成城の東宝スタジオに隣接したスーパーやホームセンターによく買い物に行くのだけど,スタジオの壁一面には大きなゴジラが描いてある。東宝にとってそれくらい大きな知財であることろのゴジラを,長い歴史があって手垢がつきまくったコンテンツを,なぜ,また,いま,アンノが。

東宝スタジオの壁に描かれたゴジラ

庵野さんが,エヴァQの後,鬱状態になっていたのを知ったのはその後のことだった。パーキングエリアで見た庵野さんは,多分半ば逃げ場を求めるように放浪していたのに違いない。そういう前提があってのあの表情。

この事実を知ってから,関連したエピソードが線になって繋がったのだった。自ら生み出したコンテンツに一端は打ち負かされながらも,師匠と慕う人から信頼され奮い立つアンノ。あるいは,朋友出渕裕が見事に現代のコンテンツとしてよみがえらせた宇宙戦艦ヤマトに鼓舞されるアンノ。日本のアニメーターを救うべく立ち上がり,ついには東宝が一度は手放したビッグIP再生の先陣に立つアンノ。こう見ると,シン・ゴジラは庵野氏自身の再生の,そして覚醒の物語であったのではないかと思えてくる。

彼が主人公に語らせたセリフ「この国はまだまだやれる・この国は立ち直れる」の主語は「オレ」と置き換えてもいいだろうし,はたまた「この国の特撮」とか「この国のアニメ」と置き換えてもいい。そして,このセリフの主語を見た者自身に置き換えた言葉こそ,この映画が持つ本当のメッセージなのではないかと思う。嫁さんとすばらしいできの本編を見たとき,そんなことを思いながら,熱い気持ちがこみ上げてきたのだった。

2016-08-18 17:00