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「英語耳」の松澤さんの来歴を聞いてラリー・ウォールを思い出した話 - 二兎を追う者は熊を射る

「英語耳」の松澤さんの来歴を聞いてラリー・ウォールを思い出した話 - 二兎を追う者は熊を射る

最近の僕は英語劇を上演する劇団に加えてもらって活動をしています。かなり本格的な英語劇の上演を目指している日本でも希有な劇団で,僕はPRの人として活動している。その関係で,つてを頼って英語に関係がありそうな人に会うことがある。先日はアスキーメディアワークスに伺って「英語耳」の担当編集者とお話をさせていただく機会を得たのでした。
英語で演劇。これは僕が前に通っていた学校でやっていたことで,英語の学習と全然関係ないと思われるんだがそれはまったくの間違いで英語の学習と大いに関係がある。
なぜならコトバは心が紡ぐものだから。心がないコトバは通じない。
特に英語,発話される英語はイントネーションが重要な情報を持っている。いくら文法が正しくても,強調したい単語にイントネーションをおかないと,喋った英語が相手に通じない。
英語を使った劇を演じて,すこし大げさに感情やイントネーションをつけて英語を喋ってみることで,英語に独特のリズムや表現法を身につけることができる。この教授法は「ドラマメソッド」と呼ばれていて海外ではわりと広く実施されている。僕らが劇団では,英語としても自然で,演劇としても楽しめる演劇を作ろうとしている。英語の学習をしている人,読み書きはできるけど喋るのが苦手な人が見れば,楽しめる上にとても刺激になるはずです。そんな人にぜひ見に来て欲しいと思っているのです。
会議室で「英語耳」の担当編集者さんとそんなことを話して微妙に意気投合しながら,話は英語耳の著者である松澤さんのことに及んだ。松澤さんはなんでも元技術者で英語とはほとんど縁がなかったのだそうだ。お仕事で音声認識ソフトウエアを開発する機会があり,それをきっかけに言語学や音声学を興味を持ったということだった。
確かに,英語耳を読むと「英語にはn種類の音素があって日本人はこの音が苦手」とか「200の発音を覚えれば完璧な発音が身につく」みたいな具体的なデータがたくさん示されている。こういうデータは,音声認識のお仕事をされているときの研究成果を反映しているらしい。編集者さんいわく「松澤さんは具体的な目標を示すのが上手で,それが書籍のヒットに貢献している」と言っていた。確かに,具体的な目標を示してもらった方が,人間がんばれるものだ。
最近の英語学習関連書籍の売り上げの話に話題が及んだとき。大学などで教えている先生は,わりと自信の理論に凝り固まってしまう傾向があるのだけど,松澤さんのような方は型破りの理論を生み出す力を持っている,というようなことを聞いてこれもひどく納得してしまった。「英語は文字ではなく音から覚えろ」という松澤さんの持論は,最初はかなり突飛だったようだ。もともと技術者で,固定観念にとらわれずに,プラクティカルなデータや経験に基づいて,イノベティブな理論を組み上げることができたのかも知れない。最近にわかに注目されだしている,シャドウィングや多読も松澤さんが広めたようなものだと聞いたとき,僕は毎朝CNNのニュースをシャドウィングをしているくせにそのことを知らなかった失礼な奴なのだけど,やっぱり目の付け所が違うんだなあと思った。

そんなことを聞きながら思い出したのが,スクリプト言語Perlの設計者ラリー・ウォールだ。彼の来歴は松澤さんとはむしろ逆で,もともとは言語学を専攻していた。奥様のお父様の元で研究を続けるためにケニヤに行く予定だったが,アレルギーがあるため断念,アメリカに残ってお金を稼ぐために技術者になって,Perlを生み出した,というような話を去年の夏に伺った。
Perlが「開発者が書きたいようなプログラム」を書けるようになっているのももともと言語学が専攻だったからだそうだ。Perlのように自然言語に近いプログラミング言語は画期的で,ご多分に漏れずたくさんのイノベーションをもたらしたし,Perlというプログラミング言語を中心に文化を生み出しもした。

技術と言語学のコラボレーションが生み出したイノベーションという意味では,松澤先生の「英語耳」もラリーのPerlも似たような位置づけにあるのかも知れない。二兎を追う者は一兎をも得られないどころか,熊を射てしまったというわけである。技術や価値観が複雑化する中,本当に価値のあるものを生み出したいのなら,「技術」+「何か」を極めなければならないのだなあ,と思ったのだった。
2010-08-27 04:50